岡山にゆかりのある文学作品を募集していた第17回岡山県「内田百閒文学賞」の受賞作品が次のとおり決定しました。
令和6年11月の最終審査会では、応募作品305編の中から第1次、第2次審査を経て、最終審査員の小川洋子氏、平松洋子氏、松家仁之氏による厳正な審査が行われました。
令和7年4月25日(金)に、岡山市内において表彰式を開催、受賞作品は、株式会社大学教育出版から出版しています。 受賞作品出版物一覧はこちら
○最優秀賞 岡山県知事賞
作品名 小説 『泣き女(め)』
作者名 寺田 勢司(てらだ せいじ)
・昭和59年、石川県生まれ(40歳)
・大阪府在住
・自営業
〈受賞歴〉
第38回さきがけ文学賞 選奨
第40回さきがけ文学賞 入選
第27回伊豆文学賞 最優秀賞
(作品の概要)
江戸時代、美作津山の坪井に住む産婆ひさは、貧しい百姓のお産に立ち会う。生まれた女児は養子に出すか、間引くかを依頼され、ひとまず赤子を連れ帰る。また、当地の産婆は、死者の身体を清める湯灌や葬儀の際に泣いて送り出す「泣き女」という役も担っていた。
ある日、「泣き女」を依頼された家の幼女から、祖父は笑って送ってくれと言っていたという意向を聞かされる。幼女が笑って送ろうとして家人に止められる中、ひさたちはためらったものの幼女のひたむきな態度に心打たれ笑って送り出した。慣習をやぶったことで詮議されるが、生死に関わる者の心の内を述べ、また、家で預かっている女児は自らが育てる決心をする。
(審査員講評)
かつて日本の習俗のなかに根付いていた産婆、子殺し、泣き女、湯灌を取り上げ、女性たちが担わされてきた苦楽を描く。土俗的なテーマを扱いつつ、タブーやエロスの世界にも踏み込み、為政者と底辺を生きる者との構図も鮮やか。現代を撃つ作品である。
○優秀賞 岡山県郷土文化財団理事長賞
作品名 小説 『へのへの茂次郎(もじろう)』
作者名 疋田 ブン(ひきた ぶん)
・昭和37年、岡山県生まれ。(62歳)
・東京都在住
・会社員
〈受賞歴〉
なし
(作品の概要)
舞台は、明治中期の邑久郡本庄。少年茂次郎(のちの竹久夢二)は、出かけた岡山で女の身投げを目撃する。その時、胸に抱いていたのは、のっぺら坊の凧。茂次郎には秘密の遊びがある。その秘密があらわになった時、その羞恥と後悔を誤魔化すように、のっぺら坊に目鼻口を入れる。
ある日、目鼻口を入れたのっぺら坊の凧を揚げるが、月見草が咲く川に落ちる。その頃、本庄に女旅芸人の一座が現れる。一座の座長に父が貢いだと母は泣く。茂次郎は両親の言い争いから逃れようと、落ちた凧を川に見に行く。そこで女旅芸人と男がもめている現場にでくわす。身投げした女の記憶に、川の水に消えたのっぺら坊の顔と、目の前の女旅芸人が錯綜する。錯綜しながら、茂次郎は大人ぶって、月見草の別名は、『宵待草』だと言う。女旅芸人は、それは間違っていると言う・・・・・・。
(審査員講評)
凧、のっぺら坊、鷺、月見草などささやかな物を印象深く描きながら、竹久夢二の少年時代を色彩やかに浮かび上がらせた作品。尚かつ、夢二の芸術的センスの萌芽を 予感させる面白さにも心ひかれる。
○優秀賞 岡山商工会議所会頭賞
作品名 小説『アゲハの記憶』(きおく)
作者名 山本 博幸(やまもと ひろゆき)
・昭和32年、長崎県生まれ(67歳)
・長崎県在住
・無職
〈受賞歴〉
第6回安川電機九州文学賞 大賞
(作品の概要)
入社式当日、解離性障害を発症して記憶をなくした沙織は、幼い時を過ごした岡山にやってきた。この街に転校してきた小学一年生の時も記憶をなくしたが、悠平と恵子という老夫婦の住む家で過ごすうちに癒されたことを思い出したからだ。その家には、死んだ恵子が残した果樹や野菜、花々が育つ庭がありアゲハ蝶が乱舞していた。恵子が生前、空襲で死んだ子どもたちが蝶になってここに来ていると語っていたことを思い出す。
ある時、沙織は夢の中でアゲハ蝶になる夢を見た。目が覚めると悠平は生物の進化を語り、再生していく自分を感じる。やがて悠平も亡くなり、この家は取り壊されることになる。
(審査員講評)
こころに病を抱えた主人公が、庭で果樹を育て慈しみ静かに暮らす老夫婦と出会う。戦争の記憶、アゲハ蝶の生態などを追いながら、生きることへの望みを回復してゆく。幻想にとどまらず、苦味もふくんだファンタジックな作品。
第一次・第二次審査選考結果
第一次審査選考結果
一次選考通過作品は、以下の43作品です。
※受付順
| 題名 | ジャンル | 作者名 |
|---|---|---|
| 夢一夜 | 小説 | 山縣 千洲 |
| 猿の三吉-昔話「猿婿入り」異聞 | 小説 | 垣ノ花 涼 |
| 傷痍軍人岡山療養所 | 随筆 | 菊池 健 |
| 怨霊の妻 あるいは桃太郎伝説異聞 | 小説 | 小倉 遊帰 |
| 阿智の海 | 小説 | 丸山 梓 |
| 雄町童話 | 小説 | オマチスト 高木 |
| 蛇にだかれて乳をのむ | 小説 | にいご ひろむ |
| 僕達の季節(春夏秋冬) | 小説 | 庄司 誠 |
| 光に輪郭を | 小説 | 畔地 里美 |
| 旭川碧にして | 小説 | 子也 遊吾 |
| 川止メ | 小説 | 松 英一郎 |
| 「御馳走帖」の世界 | 随筆 | 横山 勲 |
| まばゆい来訪者 | 小説 | 吉野 栄 |
| へのへの茂次郎 | 小説 | 疋田 ブン |
| 二人内蔵助 | 小説 | 妹尾 啓太 |
| 冷たい鉄路 | 小説 | 橋本 隆憲 |
| 浮城の首級 | 小説 | 三度 刀之輔 |
| 演習場からの手紙 | 小説 | 吾郷 修司 |
| 洋子さんと私 | 随筆 | 有本 友美 |
| 青き空と海をさがす | 小説 | 島津 りいと |
| 戸背の桜 | 小説 | 凪野 笙子 |
| 深夜の口笛 | 随筆 | 柳澤 哲 |
| 牛神の夏 | 小説 | 守屋 茅 |
| そして、歌声はつづく | 随筆 | 大月 ちとせ |
| 泣き女 | 小説 | 寺田 勢司 |
| 鉄道の音楽と内田百閒 | 評伝 | きむらけん |
| 隣人の夏 | 小説 | 山本 寛子 |
| フェアリー・ランド | 小説 | 酒江 寿延 |
| ゆれ | 小説 | 辻 明野 |
| ワンダフル・ヒトミ | 小説 | 竹並 麻夕子 |
| 朝焼け | 小説 | 池端 洋子 |
| 靴とシャツ | 小説 | 由良戸 亮 |
| 道 | 小説 | 木谷 新 |
| はとの血 | 小説 | 小浦 裕子 |
| 墓地でビール | 小説 | 伊香映像 |
| 日和下駄響く | 小説 | 波奈 辰己 |
| 天空に咲く | 小説 | 梶田 祐子 |
| 洞を行く | 小説 | 青田 雪生 |
| 春色クリームロール | 小説 | はる |
| 鳴釜 | 小説 | 粕谷 光 |
| 阿鼻の瓶 | 小説 | 守野 一匹 |
| アゲハの記憶 | 小説 | 山本 博幸 |
| おらがの | 小説 | 田村 一士 |
第二次審査選考結果
二次選考通過作品は、以下の10作品です。
※受付順
| 題名 | ジャンル | 作者名 |
|---|---|---|
| 光に輪郭を | 小説 | 畔地 里美 |
| 川止メ | 小説 | 松 英一郎 |
| へのへの茂次郎 | 小説 | 疋田 ブン |
| 二人内蔵助 | 小説 | 妹尾 啓太 |
| 冷たい鉄路 | 小説 | 橋本 隆憲 |
| 演習場からの手紙 | 小説 | 吾郷 修司 |
| 深夜の口笛 | 随筆 | 柳澤 哲 |
| そして、歌声はつづく | 随筆 | 大月 ちとせ |
| 泣き女 | 小説 | 寺田 勢司 |
| アゲハの記憶 | 小説 | 山本 博幸 |
